家族とイネイブリング

依存の問題を抱えた人がいると、家族に何が起きる? どうしたらいい?
季刊『Be!』増刊号No.16「依存症って何?」のコラムより、抜粋・一部改編してお届けします。

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飲むたび酔いつぶれ、身体を壊しているのにまだ飲む。
薬物使用で警察に捕まる。
ギャンブルの借金を繰り返す。
大量に食べては吐く。

……その周囲にいる家族は、次々起きる問題を何とかしようと必死になります。
それなのに、一生けんめいやればやるほど、すべてが裏目に出てしまう。
どうしてなのでしょう。

アルコール依存症の場合を例にとって、悪循環のしくみを見てみましょう。

●行動をコントロールしようとする

家族はたいてい、飲みすぎないように説教したり、飲んだ量を調べたり、酒を捨てたりします。外で飲むと心配なので、家で飲ませようとする場合もあります。
けれど本人にとっては「飲酒が何よりも優先」になっているため、結局はどんな手段を使っても酒を手に入れて飲むのです。
ウソをつく、酒をどこかに隠しておく、暴力をふるう……。
家族が強硬な手段をとるほど、本人もそれを突破する方法を考え出すため、きりがないだけでなく、状況は悪化します。

ギャンブルの借金を二度としないと誓わせることも、拒食の人に無理やり食べさせようとすることも、過食をやめさせようとする努力も、同じことになります。

●理由をコントロールしようとする

さみしいから飲むのだろうと悩みを聞いたり、なぐさめたり、趣味を持たせようとしたり、結婚すれば飲まなくなるだろうと見合いをさせたり……。
一時的に成功したように見えても、結局は無駄な努力に終わります。
本人が心からそのことを望んでいるのでないかぎりは。

中でも、飲酒・薬物使用・自傷などの理由を作るまいとして、「いつも機嫌よくいてもらおう」「怒らせないようにしよう」「イライラさせないようにしよう」と努力することは、家族をとことん疲れさせてしまいます。
本人はその姿を目にした自責感の裏返しで、さらに依存の行動へ向かってしまうことも多いのです。

●結果をコントロールしようとする

玄関で酔いつぶれた人を部屋まで運んで寝かせる。
会社に行けない本人の代わりに言い訳の電話をかける。
酔って迷惑をかけた相手に謝る。
……いずれも家族は仕方なく後始末しているのですが、本人にとっては自分の問題を家族が代わって解決してくれるため「まだなんとかなる。大丈夫だ」と感じてしまいます。

このように、結果として病気を進行させてしまう行動を「イネイブリング」と呼びます。
悪循環から抜け出すためには、周囲がイネイブリングをやめて「本人の問題を手放す」「本人の責任を本人に返す」ことが必要です。
とはいえ、長年の行動を変えることは難しいですし、日常の中ではさまざまな困りごとが起きてきます。
だからこそ、自分一人でがんばるのではなく、専門の治療機関に家族がつながってアドバイスを受けつつ対応したり、自助グループに参加してみることなどが役立ちます。

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