家族支援で大切なこと

水澤都加佐です。
アルコール・薬物依存症、摂食障害、ひきこもり、うつなどの問題に悩む家族の相談を受けたり、支えていく上で、何がもっとも大切かを考えてみましょう。

1.いくらがんばっても……

家庭の中に誰か、問題を抱えた人や、心に関わる病気の人がいると、何が起きるでしょうか。 家族は懸命に、考えられる限りの対処をしようとします。

最初は本人の行動を「まとも」にしようとして、あれこれ助言したり、懇願したり、説教してみたりするでしょう。責めたり叱ったりもするかもしれません。
次には、問題の原因をなくそうとして、なるべく怒らせないように、心配事がないように、機嫌よく過ごせるように、あれこれ気を遣うかもしれません。
やがては、さまざまなトラブルが起きて、周囲への尻拭いに追われるかもしれません。

本人の行動をコントロールする努力
問題の原因をコントロールする努力
問題の結果をコントロールする努力
……家族は必死になって日々、がんばります。

けれど、事態はよくなりません。
依存症でも、ひきこもり・自傷・摂食障害などでも、うつでも、似たようなことが起こります。
いくらがんばっても、状況は困難になるばかりで、家族は疲れ果ててしまうのです。

このような状況の家族が助けを求めてきたとき、援助者は一体どうすればよいのでしょうか。

2.「教育」の落とし穴

よく行なわれているのが、家族に対して「病気や問題について教える」「間違った対応と正しい対応について教える」というものです。
たしかに、知識は大切です。
けれどそこには落とし穴があります。

家族に対して一律の形で教育を行なうということは、裏を返せば、「あなたのやり方が間違っているからこの事態を招いた」と言うのと同じになりかねません。
正しいやり方を教えても、なかなか行動が変わらない家族に対して、援助者はイラついて「ダメな家族」というレッテルを貼りがちです。
家族の無力感は増幅します。

実は家族は、自分たちがやってきたことの意味を承知しています。
何が役立ち、何が役立たないかも、心の中ではわかっているのです。
「こんなことをしていても、どうにもならない」
と知りながらも、毎日毎日起きる事態に、反応せざるを得ない。 ほかにどうしようもない。
これは理屈ではなく、気持ちの問題です。

では、援助者はどうすればいいのでしょうか。
教えるのではなく、家族の中にすでに存在している「体験から学んだこと」を、家族自身の口から話していただく。
「本当はこうできたらいいのに」
とわかっている家族に対して、どうしたらそれができるのかを一緒に考え、サポートするのです。

その行動の妨げになっている感情は?
周囲からのプレッシャーは?
本当はその人にどうなってほしい?
自分自身はどう生きたいと思っている?
……こうしたことを、ともに考え、人生の方向を変える勇気を支えていくこと。 それが援助だと思います。

3.感情に踏みこむこと

人は理屈をいくら詰めこんでも、感情が動かなければ、行動しません。
傷ついて疲れ切っている人であればなおのことです。

「あの人は(あの子は)どうしてこうなのか」という怒りやイラ立ち。
「このままいったら最悪の結果になってしまう」という恐れや不安。
「今まで私が一生けんめいやってきたことは、無駄だったのか」という徒労感や絶望。
「幸せになるはずだった私の時間はどこへいったの」という悲しみ、さびしさ、満たされない気持ち。
……援助者はこうした感情に踏みこんでいかれる力量が必要です。

一対一のカウンセリングに限らず、教育を行なうグループの中でも、行動の妨げになっている感情を取りあげていく必要があります。
そのためには援助者自身もトレーニングを受けることが欠かせません。
「家族に教える」だけならば、本を読んで勉強すればできるようになるでしょう。
生きた感情を扱うには、実地の練習が大切なのです。

たとえば私のセミナーでは、グループの中で生まれる感情を、援助者としてどう扱うか、それをぜひ体験していただきたいと思います。
また、参加者やご自分自身の中に起きる変化を、味わっていただきたいと思います。

ちょっとしたヒントで、家族は大きく変わります。
家族が変わると、本人の回復も早くなります。
助けを求めやすくなるのです。

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