ファシリテーションのBe・Set・Do

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ハワード・カツヨです。

私は中学校の教師をしていた27歳のとき、日本の教育に息苦しさを感じてアメリカの大学院に留学しました。その後は、母校であるカリフォルニア州立大学フレズノ校で約30年間、多文化教育やソーシャルワークなどの講座で教鞭をとりつつ、各国の留学生のカウンセリングや地域活動を行なってきました。

アメリカでは、小学校から大学までずっと、教育はファシリテーションによって行なわれています。小さいときから体験していますから、自然に体に入っているのです。
特に教育や援助などの専門職は、グループをファシリテートする力がつくよう、さまざまな形でトレーニングされます。
一方、日本では小学校から大学まで一貫して、上から下に教える教育システムです。そのため、ファシリテーションを体験するチャンスがほとんどなく、多くの人がこのスキルを身につけずに、社会に出て行きます。
これは対人援助職にとって、とてもハードな状況です。

1.こんなこと、起きていませんか

医療や援助の場面で、教育現場で、あるいは職場や地域の会議で、こんな体験はありませんか?

●多職種によるケース・カンファレンスで医師が一方的に仕切ってしまい、多様な視点を分かち合えない。
●グループ・セッションで参加者の一人がずっと話し続けている。だが司会者は、傷つけずに話を止める方法がわからず、踏み込めない。
●大学の授業でのディスカッションで、学生がなかなか発言しない。うながしても一人ずつ話すだけで、議論が深まらない。
●新規プロジェクト立ち上げのため、職場で会議が招集されたが、目的がはっきりせず、何のための会議かと参加者が混乱。

どれも、ファシリテーションがうまくいっていないため、参加者が力を発揮できない……それどころかストレスさえ感じる事態になってしまっています。
実にもったいないことです。

私は、参加者の力を引き出すファシリテーションの方法を日本に広めたいと願い、アスク・ヒューマン・ケアとチームで、2008年から取り組んできました。

講座「グループ・ファシリテーションの理論とスキル」は、初めから終わりまで、私のファシリテーションによって進行します。モデルを味わって体に入れていただくためです。

方法は非常にシンプル。

「教えない」
「場をコントロールしない」
「参加者を信じる」

ところが、上から下に教える教育が体に染み込んでいると、これがむずかしいのです。
ファシリテーションの本質をわかりやすく伝えるにはどうしたらいいか、チームでディスカッションを重ね、大切な要素を3つ抜き出しました。
それが、Be・Set・Do。
講座の三本柱になっています。

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2.Be・Set・Doとは

◆Be=どうその場に居るか

ファシリテーターの資質で一番大事なのは、自分の状態をありのまま客観的に見る「自己モニター」の力だと、私は思っています。
ファシリテーターは、自分のコンディションをつかみ、整える方法を持たなければいけません。自分がガタガタしていたら、グループに意識を集中することができませんから。

自然体でその場に居ること。完璧な自分になろうとせず、参加者の力を信じてゆだねられること――講座ではその練習をします。

「自己モニター」の力は、ファシリテーターとしての成長にも欠かせません。
自分の振り返りをしていくと、「あのとき、なぜこうしなかったのか?」と悔やむことがあります。そんなとき、「ああそうか、あのときの私は……」と、自分の状態が意識できることが大切です。

◆Set=どんな場を設定するか

ファシリテーターは何に責任を持つかというと、「場」に対してです。
実施の目的やニーズは?
参加者はどんな人たち? 人数は?
使える時間は? 場所は?
会場の大きさは? 椅子の並べ方は?

どんな場をつくればいいか――ファシリテーターは、さまざまな想定をしながら準備します。
そして当日、今日は何のために集まり、ここで何をするのか、「目的」や「ゴール」を示すのは、ファシリテーターの大事な役目です。

それがわからないと、参加者はどういう心持ちで参加し発言すればいいのか、どこに向かえばいいのかわかりません。
講座では、この練習もします。

◆Do=どう行動するか

場を動かす行動のスキルです。ファシリテーターにこのスキルがあると、参加者は、有意義な話し合いができたり、発見や気づきが深まったり、合意に到達したりできます。

また、いくら場を設定してもグループは生き物なので、目的から外れるなど、場が崩れることはよくあります。
ファシリテーターは「場の責任者」ですから、こんなときには軌道修正をし、場を整えなくてはなりません。Doのスキルを使って進めていくと、決まりきった形で淡々と進行するより、ずっと大きな成果を得られることが多いのです。

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そんなわけで講座では、「質問」「要約と確認」「観察とレポート」「リフレ―ミング」「肯定的なフィードバック」の5つのスキルをとりあげ、1日かけて具体的に練習します。
ロールプレイでは、あらかじめ話し合ったプランどおりには進まないことを体験できます。ファシリテーターはその場の流れに対応することになります。
2日間の講座の最後に、学んだことをすべて使いながら、グループでファシリテーションのロールプレイを行ないます。
構成メンバーによって何が飛び出すかわかりません。

ファシリテーションは出たとこ勝負!
頭で理解するだけでなく、実際にやってみることが大事なのです。
さあ、失敗して、学びましょう。